武産道場
1.道場までの道のり
英語はフィリピンの公用語ということもあり日本からでもインターネットで簡単に道場の情報を集めることができます。首都であるメトロ・マニラ地域を中心に調べると、大学のクラブを含めて10以上の道場があります。今回はその中から、所在地が特定できない道場や、中心部から遠く離れた道場、そして私がマニラにいる時に練習がない道場を省き、二つの道場を選びました。
まず、SMメガモールという有名な巨大ショッピングモールの5階にある道場を訪問することにしました。ホームページによると岩間道場の影響があり、毎日夕方に武器と体術の練習をそれぞれ45分行っているようです。
念のために練習開始時間より一時間ほど前にモールに行ってみました。中はアメリカのショッピング・モールによく似ていて、たくさんの若者が買い物をしています。私は買い物には興味がないので目的の5階に直行しました。ところが道場が見つかりません。端から端まで数百メートルもある大きなショッピングモールなので、見落としたのかもしれないと思い何度も往復しましたが、どうしても見つけることができませんでした。
その代わり、同じ階にあるEXCELというフィットネス・センターのウィンドウに大先生の写真が載ったポスターを見つけました。そこはウェイト・トレーニング、エアロビクス、テコンドー、キックボクシングなどを行っている場所で、週に三回合気道の指導があるようです。残念ながら私が訪れた日には練習がありませんでした。受付のお姉さんにチラシをもらうついでに、私が探している道場のことを聞くと、もう閉鎖されたと言われました。チラシにKi Association Internationalと書いてあることから、どうやらここは氣の研究会(心身統一合氣道)系列の道場のようです。
この道場の月謝は月・水だけなら650ペソ(約2,000円)、日曜日も参加すると900ペソ(約2,700円)。日本人にすると大変安く感じますが、現地の収入から考えれば結構な金額です。中産階級以上の人しか練習できないのではないかと思いました。このモールに入るにもガードマンによる厳しい持ち物検査があり、そこそこの身なりをしていないと建物の中に入ることができないようです。
探していた道場は閉鎖されたと分かったので、もうひとつの道場に行くことにしました。電車に乗って一駅先にあるTakemusu Dojo(武産道場)です。ここもCODデパートメントストアーという店の4階にあるところなので、同じように華やかなところを想像していたのですが、中は数名の店員以外誰もおらずエスカレーターも動いていません。2階より上は電気が消えていて閉鎖されているように見えました。
ここもダメかと思いましたが、最後まで見届けるまであきらめるわけにはいかないと思い直し、止まったエスカレーターを歩いて4階まで上りました。すると奥の方にウェイト・トレーニングの施設とマット敷きの場所があり、柱に翁先生の写真が飾られているのを見つけました。どうやらここが道場のようです。
2.武産道場のようす
受付に先生らしき人がいたので早速自己紹介をし、練習に参加させてもらえるかどうか尋ねたところ、快諾してくれました。先生の名前はReynald Asperin III(右の写真)。私より小柄で、おそらく160cmぐらいでしょう。しかし身体は鍛えられていました。
あとで分かったことなのですが、合気道の指導の前にウェイト・トレーニングをして、合気道の後に柔道の先生に寝技を教えてもらっているそうです。鍛えまくりですね。
練習の前に組織のことを伺ったところ、合気会の本部に属する団体がフィリピンには二つあることが分かりました。Filipino Federation of Aikido(フィリピン合気道連盟)とAikido Philippines(合気道フィリピン)です。どういう経緯で二つに分かれたのかは聞きませんでしたが、二つが一緒にならないと日本の本部の師範は指導に来てくれないということらしく、本部師範のセミナーでは必ず一緒に練習するということでした。
またこのセミナーは二つの団体が交互に開くことでバランスを取っているそうです。この武産道場はフィリピン合気道連盟に属する道場で、私が見る限りスタイルは東京と同じようでした。
練習時間は月・水・金の6:30~8:30と土曜日の4:30~6:00。つまり週4日も練習しているわけですね。指導は系統立てて行われているようです。この日の内容は「肩取り正面打ち」に対する捌きとそこから行える技のバリエーションの練習でした。まず先生が手本を見せてから練習する、これは日本と全く違いがありません。
この日練習した基本的な足捌きは二つ。取られた肩の方向へ体の転換をする足捌きと、正面打ちを流して三教をかけるときの足捌き。Asperin先生は足捌きによって有利な場所に立つこと、相手との間に空間を作ることにポイントを置いていました。空間を作るのは、そこに相手を押さえ込むことができるからでしょう。
例えば一教ですが、入身からでも転換からでも空間の中に腕を押さえ込むようにしていました。私の一教は野村師範スタイル、つまり必ず相手の中心を攻めるので、相手との空間が狭く、受けにとっては軽くやっても圧力が強すぎるようです。軽く押さえ込んでも、きつすぎると先生に注意されました(笑)。
皆さん熱心に練習していて先生の説明も一生懸命に聞いていました。3月にもかかわらず暑さは日本の夏と同じくらいで、分厚い柔道着を来ていた私はとてもたくさん汗をかいてしまいました。他の人が水を飲むことなく練習するのには驚きました。よくみると皆さん薄い道着で練習しているようです。
ここでは練習相手の変更はありませんでした。せっかく訪問したのだからいろいろな人と手を合わせたかったので、これは残念でした。
手前の白帯の方は日本の道場で内弟子になりたいそうです。
Asperin先生は私と同じ31歳で同じ二段ですが、きっちりとした形で正統な合気道を指導していました。合気道の指導だけでなく、柔道の寝技の個人指導も受けるなど、大変気概を感じました。またこの道場には日本の道場で内弟子になりたいと考えている若者もいます。我が身を省みる良い機会となりました。
練習後に道場の皆さんと記念撮影