My jouney of aikido

ボローニャ Bologna

AIKIDO KEIKO道場

1.道場までの道のり

合気道の分布を世界レベルで俯瞰してみると、合気道人口は日本よりも欧米に集中しているという説があります。私の限られた経験からいって、アメリカでは確かに道場が多く合気道が盛んに行われていました。ではヨーロッパはどうなのでしょう。
 ヨーロッパの合気道はどんなものなのか、どのような人たちが稽古しているのか、日本よりも盛んなのか、実際に稽古して確かめるべく、道着を持ってイタリアを旅行することにしました。まず最初に訪問したのはエミリア・ロマーニャ州の州都ボローニャです。
 ミラノから鉄道に乗れば、2時間強でボローニャ中央駅につきます。そこから中世風の柱廊を残した街並みの中を南に歩いていくと、20分ほどで街の中心、マッジョーレ広場にたどり着きます。ここは、ポデスタ宮殿、市庁舎(コムナーレ宮)、サン・ペトロニオ聖堂といった歴史的建造物に囲まれた小さな広場で、中世からその姿をほとんど変えていないそうです。
そこから東に少し歩くと12世紀に立てられた塔が2本立っています。高い方のアシネッリの塔は97mもあり、最上階に登ると赤やオレンジの屋根瓦に彩られた街のパノラマを楽しむ事ができます。ここからみわたせる旧市街には歴史的建造物が多く近代的ビルは一つも見当たりませんでした。

今回、訪問するAIKIDO KEIKO道場はボローニャの斜塔からみて南東の方向にある郊外の住宅地の中にあります。道場へ行くには、駅前近くのバス乗り場から11Bラインのバスに乗ってGubelliniというバス停で下りなければなりません。バスは市街の中の細い路地を縫うように走りぬけ、やがて郊外の道路に出ます。
イタリアのバスは次のバス停を教えてくれる車内放送も電光掲示板もないので、あらかじめバス停の名前をメモしておいて、バス停ごとに名前をチェックしなければなりません。徐々に夕闇が深くなりバス停に書かれた小さな文字も見えにくくなったころ、Gubelliniのバス停につきました。バス停を下りたものの、まわりは団地でどこに道場があるのかさっぱりわかりません。

2.AIKIDO KEIKO道場のようす

バス停を下りて進行方向にしばらく歩くと、Centro Sportivo Sandro Pertini(サンドロ・ペルティーニ・スポーツセンター)という建物がありました。中に入って職員に聞いてみると壁に合気道のポスターを貼っているところに案内してくれました。まだ誰も来ていませんでしたが、道場はここに間違いなさそうです。
 しばらくすると剣道具を持った人たちが集まってきました。施設の掲示板を見ると、ここでは合気道以外にも、柔道、剣道、居合道といった日本の武道をはじめ、カポエイラや指圧などもやっているようです。やがて合気道をする人たちも徐々に集まってきました。
 指導者であるロベルト先生(Roberto Travaglini氏)から許可をもらい稽古に参加する事になりました。先生は身長170cm前後ですらっとした体型、私服を着ている姿をみると普通の紳士。外見からは強そうには見えません。しかし、ひとたび道着を着て畳の上にあがると、エネルギーがあふれでるような感じが伝わってきました。先生は、ミラノ合気会の藤本洋二師範から合気道を学び、イタリア合気会創立者の多田宏師範やローマ道場の細川英機師範からも教えを受け、現在5段です。生徒をポンポンと投げ飛ばし全く疲れを見せないその姿から、ついたあだ名は「狂牛」とか。
 道場のスケジュールは月・金が武器の稽古で1時間、火・木は体術で2時間になっていました。金曜日は旧市街の南側にあるジャルディーニ・マルゲリータ公園で剣と杖の稽古をするといっていましたが、暗い中でどうやって練習するのか聞きそびれました。
 この日の生徒は15名で、有段者が4人、残りが白帯でした。欧米人は身体が大きいというイメージがあるのですが、みなさんそれほど身長は高くなく日本人と余り変わりません。何人かに「どこからきたの?」と聞かれたので「東京です。」と答えると、「本部道場か?」と質問されました。このあとイタリアのどの道場を訪問しても必ず同じ質問を受けました。東京の道場といったらやはり本部道場なんですね(笑)。


準備体操に続いて船漕や振魂といった鎮魂法をやりました。イタリアでもやっているのですね。船漕運動は最初「え・ほ・え・ほ」とゆっくりだったのが、足をかえると「えさえさえさ」とスピードが早くなり、三回目にはビデオの早送りのような動きになりました。この日見学に来ていた女性はこれを見てビックリしていましたが、まぁどこの国の人でもこれを見たら驚くでしょう。次にがそれから蹲踞(そんきょ)から立ち上がる、正座からピョンと跳ね上がって立つという変わった運動もやりました。
 技は正面打ちの一教から始まりました。右手による正面打ちに対し、一歩目(右足)で大きく前に入りながら剣を振りかぶるような形で相手の正面打ちを受け(写真左上)、直ちに腰をきり腕を抑えます(写真右上:ただし左右逆)。
 次に相手の脇の方に大きく二歩目(左足)を進め相手を崩します。この時できた両足の延長線上に三歩目を大きく動かし、相手の周りをまわりこむようにして引き倒します。初心者にも分かるように区切って分かりやすく説明されていました。
 一教を皮切りに、交差取り側面入身投げ、交差取り一教、座法呼吸法、横面打ち入身投げ、横面打ち四方投げ、小手返し、天秤投げ、横面打ち側面入身投げ、片手取り回転投げ、半身半立ち片手取り四方投げなど2時間の間に次々と技をやりました。
 驚いたのは先生の重心が低く歩幅が広い事でした。空手の用語でいうと前屈立ちに近い歩幅です(写真下)。技の構成は普通と同じなのですが、一つの技で畳三枚は使っていました。先生は、どの技も足捌きがダイナミックで安定しており、シャープで正確な印象を受けました。もう一つ感心したのは、袴をはいた有段者4人の受けが上手いことでした。無理に力んだところが無く柔らかい受けだと思いました。

「いつまでボローニャにいるのか。来月末には道主や多田師範がボローニャに来るぞ。」と言うので話を聞くと、10月30日から11月1日にイタリア合気会40周年記念がボローニャで行われるとのことでした(写真下)。多田師範が単身イタリアにわたりイタリア合気会を設立したのは1964年、東京オリンピックが行われた年だったのですね。

稽古のあと誘われるままに道場の人たちと一緒にレストランに行きました。この日はロベルト先生が合気道を始めて25年目ということでみんなでお祝いをする予定だったそうです。ところがレストランに着いたのが10時30分ごろで、宿泊しているユースホステルの門限が11時30分だったため、30分ほどしか歓談することができませんでした。
道場の人がユースホステルに電話して門限よりあとに帰ってよいか交渉してくれたのですがだめでした。結局、11時過ぎに英語が話せる道場の人が自動車で送ってくれ門限ギリギリに帰ることができました。