My jouney of aikido

バルセロナ Barcelona

合気フェイレン道場

1.道場までの道のり

先日、千代田の稽古(後の飲み会)の帰りに電車でばったり仕事帰りの上司に鉢合わせしました。合気道の帰りですと話をすると、「合気道って、男もやるのか?女がやるものだと思っていた。」と言われてビックリ!
 そういえば3年ほど前にNHKでやっていた朝の連ドラ「まんてん」の合気道の先生は宮本信子が演じる女性だったし、ドラマ「ごくせん」の主役の女性(仲間ゆきえ)は確か合気道の達人という設定でした。年配の人だと合気道と聞いたら、水戸黄門にくノ一役ででていた由美かおるを思い出す人がいるかもしれません。
 合気道は女性がやる武道だ、というイメージを持っている人は以外に多いのではないでしょうか。確かに合気道は性別に関わらずできるし、実際にやっている女性は少なくありません。
 このように一般に、女性をイメージされがちな合気道ですが、指導者をみると女性はそれほど多くありません。有名な女性指導者として思いつくのは、本部の高溝師範、アメリカのパトリシア・ヘンドリックス先生ぐらいでしょうか。
 今回、スペインの道場を探していたところ、パリで道場を開いているステファンの友人からバルセロナにあるフェイレン道場 を推薦されました。フェイレン道場は、合気会の山田先生の弟子であるミシェル・フェイレンとフランシスコ・マンチョンという合気道4段の夫婦が開いた道場です。道場のホームページによるとミシェル先生は1971年生まれとのこと。私とほぼ同い年、若干34歳で自分の名前を冠する道場を運営している女性に俄然興味が出てきました。
 合気道は女性でもできる武道ですが、全く体力を必要としないかというと、そうではありません。実際に稽古をするとすぐに気がつくことですが、合気道は見た目よりも体力を使います。特に、どのような動きの中でも自分の姿勢を維持し相手の中心を攻める事ができるようになるためには足腰の強さが必要です。そしてそのような身体能力を持っている女性が上達すれば指導者になれるのではないか、私はそんな風に考えています。
 日本人に比べてがっしりとした体格をもつヨーロッパの人を若い女性がどう指導しているのか、どのように技をかけているのか、実際に行って見てみる事にしました。
 下に示したスケジュールのようにフェイレン道場は月曜日から土曜日まで毎日練習があり、火曜日と金曜日は1日4回もやっています。そのおかげで今回は二日にわたって稽古に参加する事ができました。

2.AIKI FEILEN道場のようす



フェイレン道場はバルセロナの地下鉄1号線Fabra I Puig駅から南西に歩いて20分ほどの住宅街の中にありました。夕方になるとあたりはすっかり暗くなり人通りもほとんどありません。入口の上にはテコンドー・ジムナシオの看板が大きく掲げられていて、一瞬ここでよいのか戸惑いましたが、窓に山田先生の合気道のポスターと第38回全日本合気道演武大会の手ぬぐいが飾ってあり、合気道の道場も併設されている事が分かりました。
 中を覗いてみると待合室は合気道一色。壁には開祖、吉祥丸前道主、守央現道主の写真だけでなく、戦後合気道を世界に広めた師範達の写真が所狭しと飾られていました。その中でもやはり多かったのは二人の先生が指導を受けているNY合気会の山田先生の写真でした。待合室のテレビは合気道のビデオを流していて、受付の机の上には日本語の合気道探求の最新号が数冊置かれていました。
 壁に飾られている写真に見入っていると、奥の部屋からミシェル先生が颯爽と歩いて出てきました。道着姿ではなく、長いフレア・スカートにかかとのあるブーツをはいていたので、少し背が高く見えました。髪の毛は金髪に染めているようでした。
 訪問する事は事前に東京からメールで連絡していたので、自己紹介すると、更衣室で道着に着替えるように言われました。
 建物の構造の制約からか道場には大きな柱が3本立っていました。床はベージュのレスリングマットで、畳ではありません。
 稽古開始の時間が近づくと上段者から順番に整列しはじめました。私は遠慮して白帯の後ろに座っていたのですが、有段者に引っ張られて結局袴連中の一番先頭に座らされてしまいました(汗)。
 しばらくするとミシェル先生が静々と無言で進み出てきました。笑顔は無く真剣な面持ちです。ひとしきり一人で行う呼吸法と準備体操をやったあと稽古が始まりました。
 先生は道着に着替えると、腰回りがより大きく重く見えました。手本として見せる技は座法も立ち技も足捌きが大きく正確で、大柄な生徒にもきっちり技がかかっていました。
 初日の稽古内容は次の通りでした。
<座 法> 一教の表・裏、入身投げからの抑え技(腕と首を極める)
<横面打> 四方投げ裏、四方投げの途中で腕を首で極める技、天秤投げ、腕の中で転換し側面、入身投げ、同じく腕の中で転換して小手返し、腕で攻撃をすかして側面入身投げ、腕の中で転換し側面入身投げに入りつつそこから前に首投げ、最後に自由技
<座 法> 呼吸法
 
 横面打ちをしてきた受けの腕の中で転換して側面入身投げをするという技は、5年ほど前に一度だけ訪問した広島の道場で経験した事がありました。しかし、そこから首投げに入る技ははじめてみました。
 私が組んだ有段者はみな相当稽古をやりこんでいると感じました。受けの時には踏ん張って硬くなったり、ふにゃふにゃと柔らかくなったりせず、非常に良い受けをしていました。取りの時はしっかりと厳しい技をかけてくれました。
 海外の道場を訪問すると大抵自信のある有段者がこちらの実力をチェックしようと寄ってきます。今回も日本人がどんなやり方をするのか興味津々といった感じが伝わってきました。上手くて実力のある人は気を使って技をかけてくれるのですが、中には思いっきり技をかけてこちらに効くかどうか確認しようとする人もいました。こういう時は逆らわず柔らかく丁寧に受けを取ってあげて、やさしくやり返してあげることにしています(笑)。

二日目の稽古は、ミシェル先生とフランシスコ先生の両方のクラスに出席しました。ミシェル先生は先日同様、打突に対する技を指導し、フランシスコ先生は取りからの技を指導されました。フランシスコ先生の技は相手の中心を押し攻めるような動きが特徴でした。
 内容は次の通りです。
■ミシェル先生(写真左下)
<横面打>  入身投げ、二教表・裏、小手返し表(転換しない)
<正面打>  三教表・裏、一教から回転投げ、一教表の途中から上段突きをしつつ相手の腕の下をくぐり四方投げ
<座 法>  呼吸法

■フランシスコ先生(写真右下)
<片手取> 転換、天地投げの地の手だけで崩して天地投げに持って行く技、同じ動きで相手を崩して四方投げ裏、二教
<両手取> 四方投げから相手をまたいで腕と首を極める
<杖 取> 受けが両手で杖をつかんだところから、三教、四方投げ
<後 取> 受けを裏返して呼吸投げ、交差二教
<両手取> 受けを裏返して呼吸投げ
<座 法> 呼吸法

一教の途中から四方投げに変化する技はアメリカで稽古したことがあり覚えていましたが、四方投げをして相手をまたいで極める技は初めて経験しました。
 両手取りから受けを裏返して投げる技で、ミシェル先生と組みました。柔らかい捌きでバランスをコントロールされ、からだがパッと裏返された刹那、横からからだ全体をフワリと浮かされて吹っ飛ばされました。また、アドリブで千代田でよくやる正面から弾き飛ばす技をかけられ吹っ飛ばされました。あたりに硬い感じが全くなく、これはすごいと思いました。

二日間稽古に出てみて、技のバリエーションが多いことに感心しました。私が稽古してきた大阪や東京では割合として圧倒的に基本技が多く、時には一教と入身投げと四方投げしかしないという日もあります。それに比べると、ここは基本技だけでなく変化技をいろいろ教えていて、私が2年間稽古していたアメリカのウィスコンシン州にあるマディソン道場に通じるところがあると感じました。
 マディソン道場は、ジョン・ストーン先生とロビン・コパー先生という夫婦が運営している合気道専用道場でした。ジョン先生はAikido in Americaという著書でよく知られている合気道家で、とても柔らかい相手の力を吸い込むような技を得意としていました。
ロビン先生はアメリカで二番目に5段を取った女性で、ウィンドサーフィン狂であり、波乗りで鍛えられた足腰からくりだされる腰投げが絶品でした。スタイルは違うとはいえ、ミシェル先生とフランシスコ先生はマディソンの道場を思い出させてくれました。