My jouney of aikido

デリー Delhi

ニューデリー合気道道場

ニューデリー合気道道場は、本部道場で15年以上稽古されてきたパリトス・カー先生が2004年に設立したインドで最初の合気会本部直轄の合気道道場です。
ニューデリーの中心であるコンノート・プレースから南南東に約9km、ニューデリーを取り囲むように走っているリングロード(環状線)の外側にあるPacific Sports Complexの中に道場はあります。Pacific Sports Complexはいわゆるスポーツ・センターで、合気道以外に、エアロビクス、ヨガ、ジム、テコンドウ、水泳、ビリヤードなどが行われています。
 この道場は、早朝稽古(6:30~)が、月、水、土、日にあり、夜の稽古は7:30から1時間半、月から土まで毎日あります。私は仕事の合間を縫って金曜日の夜の稽古に参加してきました。
カー先生は、現在4段。極東ロシアで合気道を教えていたのですが、やはり母国で指導をしたいということでインドに帰国し道場を開設されました。本部道場で長く稽古されているので本部のことや本部師範のことをよくご存知で、私が稽古している千代田区合気会の山嶋先生のことを話したら、「知ってる!知ってる!道主の朝稽古にいつも来ている人でしょう。あの人強いよねぇ。からだおっきいし~。」と日本語で大喜びしていました。
「山嶋先生はそんなに大きくないし、身長は私と違わないですよ。」と言うと、「いや~。でも、あのからだは普通じゃないです。生まれつきでしょうねぇ。」と懐かしそうに話されていました。
 現在、 道場に所属する生徒は20名ほどだそうですが、訪問した当日は、袴をはいた女性が一人、日本人男性が一人、初心者二人の合計4名しかいませんでした。稽古は、初心者がいるので基本技を中心に行われました。
 デリーは非常に停電が多い街です。この夜もあいにく稽古前から停電に見舞われ、道場を照らすのは、自家発電機が電力を供給している一部の蛍光灯だけになりました。扇風機も天井で一台が回っているだけだったので、道場の気温は日中からほとんど下がらず、35度から40度ぐらいありました。
千代田区の冷房の効いた道場に慣れきった私は大量の汗をかいてすっかりばててしまい、途中何回も水を飲むために休憩せざるをえませんでした。とにかく暑い!

稽古も後半に差し掛かったところで、ついに自家発電機も止まり、道場は真っ暗になってしまいました。暗闇の中で稽古するのもおもしろいと思ったのですが、初心者がいたので、ろうそくに火をつけて正座をし、黙想することになりました。
幸い10分ほどで停電が終わり、扇風機も勢いよく回り始めました。すると今度は光に引き寄せられた虫が大量に入ってきて道場の白いマットの上に集まり、それを食べようとするコウモリやヤモリが出てきました。デリーは緑の非常に多い街なので、虫がたくさんいるのです。

カー先生はインドで合気道を広めるのは大変だと嘆いていました。そもそもインドでは合気道が知られていないということもありますが、大人になるまで子供にスポーツを続けさせる親が少ないそうです。教育の一環として子供にスポーツをさせる親はいるが、年齢が上がるにしたがって、ほとんどの親がスポーツを止めさせ、受験勉強だけに集中させるそうです。確かに私が見た空手道場も生徒のほとんどが小さな子供でした。

ニューデリー道場の一般クラスの月謝が1,000ルピー(約2,500円)、子供クラスが700ルピー(約1,750円)なので、千代田区合気会(2,000円)よりも少し高めです。
ちなみにニューデリーの中心にあるYMCAの屋外空手道場(子供クラス)の月謝は250ルピー(約625円)でした。インドは貧富の差が大きく物やサービスによって物価水準が違うため一概にこの月謝が高いか低いか言えませんが、庶民の平均的な日収が100ルピー(約250円)といわれているインドで、余暇活動に1,000ルピーを払うことは、中間層以上の人でないと不可能だと思われます。
この月謝が示唆している事は、合気道のターゲット層はインドの中間・富裕層だということです。
 参考に挙げておくと、国鉄2等車初乗りは4ルピー(約10円)、オート・リキシャの初乗りは10ルピー(約25円)、中級ホテルのビュッフェは約200ルピー(約500円)、YMCAツインは一泊約1,700ルピー(約4,250円)でした。
IT産業を中心として経済発展を遂げているインドでは、現在、総人口11億人の約2割が中間・富裕層に属しています。
ニューデリーの南にあるハウス・カース・ビレッジでは、そのような中間・富裕層の若者たちが欧米風のお店に集っているのを見ることができました。またデリー近郊の街であるグルガオンやファリダバードでは、欧米風ニュータウンやショッピングモールが次々と建設されており、経済発展するインドを感じる事ができました。
このような新しい社会階層に属する人たちの中には、ヨガなどの運動に時間を割く人たちが増えていると聞いているので、将来、合気道人をする人も増えてくるかもしれません。
 インドの武術事情と合気道の普及の可能性について興味を持った私は、できるだけ多くの人に武術について質問してみました。そこで分かった事は、大人が余暇に武術をするという文化がインドには皆無であることです。インドにもカラリパヤットといった伝統的武術はありますが、それを実際に行っているのはごく一部の人に限られていました。
中間・富裕層に属する中年男性(中小企業経営者など)に数多く会いましたが、武術をしている人は皆無でした。インド人にも、もちろん健康を維持したいという欲求はあるのですが、食事制限やヨガといった静的な方法が好まれるようで、まだ武術のように激しい運動を選択する人は余りいないようでした。